今 読んでおきたい本

The Crucible「るつぼ」  アーサー・ミラー 作


一人の妄想が周りの皆を巻き込み、やがて国家をも巻き込んでいく様子をつぶさに描く。
セイラム魔女裁判をもとにアーサー・ミラーが描き出した不屈の名作。

数多く映画化、舞台化されているが先ずはこのシナリオを読んで見る事をお勧めしたい。

映画にしろ、舞台にしろ、そこに誰かしらの価値観、思想が反映されてしまうのは当然と言えば当然であるけれど、この作品をもう一度読んでみた時、なんの先入観なしにシナリオの世界に没頭した方がこの作品を堪能出来る、と感じました。

最初、いろんな登場人物がいてついていけなそうになる事もあるが、しばらく読み進んでいくと作品の世界に入り込み、各々の登場人物の動作(振る舞い)、登場人物が発する言葉、シーンの背景、雰囲気などが創造の世界の中で活き活きと動き出します。

内容については読んだ皆さんが色々感じで頂けたらと思っています。


最後にアーサーミラー本人の言葉を載せて置きます。

マッカーシイは一九五七年に死亡──では、次のように言っている。私は単にマッカーシズムに対する答として「るつぼ」を書く気になったのではない。これが赤狩りを正すための試みでないことは、「セールスマンの死」が旅まわりのセールスマンの生活条件の改善を訴えたものではなく、また「みんな我が子」が飛行機の部品検査の改良を説いたものではなく、あるいは「橋からのながめ」が移民局に対する攻撃でないのと同じである。「るつぼ」は、内容的には、「セールスマン」の血をわけた兄弟である。これは私が前から深い関心をもっていた問題──人間の生な行為と、人間が自分自身であることについてのあいだにある葛藤の追究である。善悪の観念すなわち良心は実際に人間の一部なのかどうか、それが単に国家や時代の道徳観のみならず、友人や妻に引き渡されたらどうなるだろうという問題である。大きな違いは、「るつぼ」は、これまでの作品よりも意識または自覚についての問題を、より高度なかたちで扱おうとした点だと思う。
ニューヨーク・タイムズ、一九五八年三月九日
アーサー・ ミラー